分離膜
シリコーン中空糸ガス分離膜「NAGASEP(ナガセップ)」
当社のシリコーン分離膜とは
膜によるガス分離法は、膜の片側に混合ガスを接触させ反対側をそれよりも低圧にすることにより、特定のガスが膜を優先的に透過する現象を利用して分離するものです。
気体はその分子径が数Å(オングストローム)と小さいので、数十Åの細孔のある多孔質は勿論のこと、細孔の無い均質膜(シリコン)でも高分子鎖の熱運動によって生じる数Åの間隙を縫って透過することができます。
その透過機構は、①膜界面でのガスの溶解、②膜中でのガスの拡散、③膜の低圧側からガスの脱離からなると説明されます。ガスの種類により透過に差があるのは、ガス分子の大きさよりも膜への溶解性の違いによるものです。
シリコンは、高分子の中で最もガスを透過させやすい特徴を持っています。このシリコンをナガヤナギ独自の技術で中空糸に製膜して、集合体とした中空糸膜モジュールが「NAGASEP(ナガセップ)」です。当社のシリコン中空糸膜は完全な自動制御システムで成形しており、ピンホールが無く、極めて寸法精度の高い製品です。
NAGASEP(ナガセップ)の特徴
- 耐溶剤性
-
- 疎水性で有機物選択透過性に優れています。
- 有機溶媒に耐性を持つため廃水や混合ガスから揮発性有機化合物(VOC)を分離回収できます。
- 耐熱性
-
- 200℃の耐熱性があります。
- 動物細胞培養における殺菌方法として、直接蒸気を通したりオートクレーブ滅菌を選択可能です。
- 長期信頼性
-
- 紫外線による劣化がほとんどありません。
- 目詰まりの心配がない均質膜であるため、長期間の使用が可能です。
- コンパクト性
-
- 超極細タイプの中空糸膜のため、装置のコンパクト化が計れます。
- 中空糸膜タイプは、膜厚最小0.02mm(シリコーン単一素材では世界最薄)からモジュール化できます。
- 柔軟性
-
- 中空糸膜は柔軟性・耐屈曲性に優れており、布状に織ることも可能です。
- 用途に応じて、生産システムに合わせたさまざまな形状に設計できます。
NAGASEP(ナガセップ)の適用例
シリコーン(シリコンゴム)の選択透過性を利用しており、ガスの分離や液体への給気・脱気など多くの分野での応用が可能です。
システムは、膜の一方の側に処理したい空気や原液を流して、もう一方の側を供給したいガスで加圧するか、または真空ポンプで減圧するという極めて簡単な方法です。
- 環境分野
-
- 大気中のVOCを濃縮回収して再利用(フロン、トルエン、ガソリンなど)
- パーベーパレーション法による、バイオマスからのアルコール濃縮回収(エタノール、ブタノールなどの石油代替燃料)
- パーベーパレーション法による、液中の有機溶剤回収(工場廃液等など)
- 生産工程で発生する特定ガスの分離濃縮
- 医療分野
-
- 人工心肺
- 動物細胞培養用のガス交換器として(培地へのO2供給、CO2排出)
- 血液分析機器の脱気装置として(試験液・洗浄液の脱泡)
- 医薬品マイクロスフェア製造(乳液の脱溶媒)
- 食品・浄水分野
-
- 水道水・中水の脱酸素(配管の防錆、食品加工水の脱気)
- 大気中のCO2を濃縮して効率栽培(ハウス栽培、植物工場用)
- 食酢・酒の醸造、クロレラの培養(発酵液中への酸素供給)
- 好気性微生物処理(排水処理)
- 分析機器分野
-
- 大気中の特定ガス分離測定(ガス濃度計への応用)
- 液中のガス成分抽出測定(ガス濃度計への応用)
- 高速液体クロマトグラフィー機器の脱気装置(試験液の脱泡)
※通常はお客様のご希望に応じた分離膜モジュールを設計いたしますが、基礎試験用として別表のテストモジュールも準備しております。
NAGASEP(ナガセップ)モジュール標準仕様
1. 中空糸膜の仕様
タイプ | M30(膜厚30μm) | M40(膜厚40μm) | M60(膜厚60μm) | M80(膜厚80μm) |
---|---|---|---|---|
最大差圧(MPa) | 0.1 | 0.2 | 0.3 | 0.4 |
使用可能温度範囲(℃) | -60~+200 | |||
破断強度(MPa) | 8.9 | |||
破断伸度(%) | 370 | |||
酸素透過速度(cc/m2・min・atm) | 700 | 500 | 380 | 260 |
2. NAGASEP(ナガセップ)の各種気体透過性
N2 | 2.5 | H2 | 5.7 | Xe | 22.8 |
---|---|---|---|---|---|
CO | 3.0 | CH4 | 8.3 | C3H8 | 25.0 |
Ne | 3.1 | Kr | 10.0 | H2S | 88.4 |
He | 3.2 | C2H4 | 13.3 | NO2 | 133.0 |
O2 | 5.0 | CO2 | 18.5 | H2O (蒸気) |
318.0 |
NO | 5.3 | C2H6 | 16.0 | ||
Ar | 5.3 | NH3 | 20.9 | CS2 | 793.0 |
3. テストモジュールの仕様
4. テストモジュール概略図
5. テストモジュール圧力損失データ
6. 実機用標準モジュールの仕様
形式 | GS-M40-05S | GS-M40-10S | GS-M40-30S | |
---|---|---|---|---|
材質 | 中空糸膜 | シリコーン(シリコンゴム) | ||
ハウジング | アルミまたは塩ビ | |||
シール材 | シリコーン(シリコンゴム) | |||
仕様 | 膜タイプ | M40 | M40 | M40 |
膜本数(本) | 38,500 | 49,000 | 104,500 | |
膜有効長(L1/mm) | 200 | 320 | 440 | |
有効面積(m2) | 5 | 10 | 30 | |
モジュール外寸(D×L) | 140×310 | 160×436 | 230×594 | |
接続口ネジ寸法 | 本体管PT-1/4 キャップPT-1/2 |
本体管PT-3/8 キャップPT-1 |
本体管PT-1/2 キャップPT-11/2 |
|
条件 | 最大圧差(Mpa) | 0.2 | ||
上限温度(℃) | 200(アルミ) / 80(塩ビ) |
7. 実機用標準モジュール概略図
8. 実機試験モジュール圧力損失データ
9. 脱気試験用モジュールの仕様
10. 用途別モジュールフローシステム
分離膜に関するよくある質問
機能性ガス分離膜「NAGASEP(ナガセップ)」に対する、よくあるご質問と回答を紹介いたします。
以下の質問をクリックしていただくと、回答をご覧いただけます。
NAGASEPは、シリコンゴム製中空糸による均質膜※1の分離膜モジュールです。
その特徴は、内径が200μm(0.2mm)程度・膜厚がサイズごとに20~80μm(0.02~0.08mm)の極細チューブを束にしているので、比較的少ない容積で大きな分離膜面積を確保できることです。
NAGASEPの中空糸膜であるシリコンゴムは、生理的に不活性であることから、-60℃から+150℃強までの幅広い温度帯域で常態物性を保ち、電気絶縁性が高く、また紫外線に強いなどの特徴を有しています。
※1「均質膜」とは、高分子鎖が分子レベルの隙間を持っている孔の無い膜のことを指します。
多孔質膜は、膜にあけられた細孔の大きさによって各種成分を選別し透過分離します。そのため操作中に孔の目詰まりなどにより膜性能が低下する現象(膜ファウリング)が起きやすく、対策が必要です。
対する均質膜には、その孔がないので目詰まりの心配がありません。気体は分子径が数Å(10-10m)と小さいために、細孔の無い均質膜でも高分子鎖の熱運動によって生じる隙間を縫って透過できます。
均質膜における透過は、<膜の高圧側面での分子の溶解>→<膜内での分子の拡散>→<膜の低圧側面での分子の脱離>の3段階を経ることで行います。
膜への溶解性は分子の大きさに比例して増加しますが、これは分子が大きいほど凝縮性も大きく、この効果によって膜内に溶け込みやすくなるためです。
逆に膜中での拡散性は、分子が大きいほど抵抗が大きくなるため一般的には小さくなりますが、シリコンゴム膜は高分子鎖の隙間が大きいので、分子の大きいガスでも拡散速度に影響を受けず、透過速度は溶解性の違いによって決定されます。
動物細胞は呼吸していますので、住み家である培地液中の酸素濃度を高く保ち、かつ炭酸ガスを排出する機能が必要になります。
NAGASEPを構成しているシリコンゴム中空糸膜は、
(1)限られた容積内でガス交換膜の面積を効率的に確保できる
(2)酸素と炭酸ガスの透過性が良好
(3)カビや雑菌の侵入経路がない
(4)供給圧に関係なく無気泡でガス交換できる
(5)オートクレーブ滅菌ができる
などの特長を併せ持っており、ガス交換機用として適しています。
シリコンゴム膜モジュールに混合溶液を供給し、膜の反対側を真空ポンプで減圧することで、透過して来た蒸気を冷却トラップで液化する浸透気化法により混合溶剤を分離回収できます。
浸透気化法とは、膜の片側に水溶液を供給し、反対側を真空ポンプで減圧することにより、特定の液体成分を蒸気として膜を透過させ、この蒸気を冷却して取り出す方法です。
膜の断面を厚さ方向に考えると二つの層から成り立っていて、液体側では膜に液体が浸透した溶液相が、また気体側ではこの液体が蒸気となった蒸気相が形成されています。
分離過程としては、<液と膜との接触面における液の膜への溶解>→<膜中での透過分子の拡散による移動>→<気体側での透過分子の蒸発>の3工程です。
従って、浸透気化法の原理は、ガス分離膜の場合と同様、膜に対する溶解・拡散速度の差を利用して分離するもの、すなわち透過成分と膜との相互作用によるものであるため、沸点の差で分離する蒸留法では分離できない共沸混合物も膜の選定によって分離できる利点や、逆浸透膜とは違い浸透圧の影響を受けない利点があります。
シリコンゴムは疎水性であり、長期間水に浸けておいても吸水率は1%未満です。
シリコンゴムは一般的なゴムと異なり、主鎖がケイ素と酸素のシロキサン結合から成っており、化学的に安定した分子構造をしています。
NAGASEPはシリコンゴム中空糸膜を採用しており、そのシリコンゴムは、各種の酸・塩基・塩類・酸化剤のような無機薬品やアルコールまたは動植物油のような極性有機化合物には優れた耐性示しますが、ガソリン・トルエン・四塩化炭素・絶縁油などの無極性有機化合物には膨潤します。
希酸・希アルカリ・アルコール・アセトン・ニトロベンゼン・アニリンなどにはほとんど侵されず、10~15%の容積増加に止まります。
なおベンゼン・トルエン・ガソリン・四塩化炭素等にはある程度膨潤するものの、一般の有機系のゴムと異なって材質の溶解がないため、溶剤を除くと元の状態に戻ります。
また、高温での耐油性に優れています。
VOC※3の排出対策には燃焼処理する方法と分離回収する方法があり、分離回収法は活性炭による吸着操作と選択透過膜による膜分離操作があります。
NAGASEPが採用しているシリコンゴム中空糸膜は、VOCの分離濃縮に優れた特性を持っています。
装置は膜モジュールに真空ポンプと蒸気回収容器を設置しただけの簡単な構造で、膜の供給側が大気圧で膜の透過側を減圧することで、VOCを連続的に濃縮回収できます。
※3「VOC(Volatile Organic Compounds)」とは、揮発性を有し大気中で気体となる有機化合物の総称です。
VOCの多くは、接着剤や塗料・インクなどに溶剤として含まれているため、化学製品メーカーや印刷施設などVOCを洗浄剤として使用する電子部品や金属加工メーカーなど、またガソリン等の石油類をはじめとするVOCの貯蔵タンクなどから排出されているのですが、それが大気中に放出されると健康被害などの公害を引き起こす虞があるため、2004年に施行された改正大気汚染防止法によって主要な排出施設への規制が行われています。
シリコンゴム中空糸内に水を流し外側を真空ポンプで減圧することにより、水中の溶存ガスを連続的に除去できます。
一般に、水温20℃で酸素が8ppm、窒素が15ppm程度溶解していますが、シリコンゴム中空糸膜を使用することでppbオーダーまで脱気することができます。
水と有機溶剤を分離する場合、シリコンゴムは疎水性のため有機溶剤が優先的に透過します。
水道水や地下水に含まれ有害とされているトリクロロエチレン・クロロホルム・四塩化炭素などのトリハロメタン(塩素化合物)も同時に除去できます。
シリコンゴム膜を使った装置で、環境空気から酸素や二酸化炭素の濃縮が簡単にできます。
室内空気(酸素濃度21%・炭酸ガス濃度400ppm)をシリコンゴム膜モジュールに供給し透過側を減圧することで、透過した空気は酸素濃度30%・炭酸ガス濃度1,500ppmに濃縮されます。
濃縮炭酸ガスは、ハウス栽培で温室への二酸化炭素供給装置として使用できます。
製造する際に、中空糸同士の密着を防止する目的で膜表面に微量のシリカ粉を塗布していますが、薬液等による処理はしておりません。
シリカとは、自然界に多くあるいは生体内にも微量ながら含まれている二酸化ケイ素で構成される物質の総称です。
工業用ではゴムや紙等の充填剤あるいは食品・化粧品・医薬品の添加物に、身近なところではお菓子の乾燥剤など、産業界でも広く使われています。
汚れによって薬剤を選定する必要がありますが、一般的には下記の洗浄剤が使用されます。
下記の洗浄剤をモジュール内にポンプで循環させ、その後に水ですすぎ洗いしてください。
【微生物】
水酸化ナトリウム(pH10~12)、次亜塩素酸ナトリウム(100~1000ppm)、過酸化水素(1~3%)
【タンパク質、多糖類など】
水酸化ナトリウム(pH10~12)、次亜塩素酸ナトリウム(100~1000ppm)、界面活性剤(0.1~0.2%)
【油脂】
水酸化ナトリウム(pH10~12)、界面活性剤(0.1~0.2%)、温水(~80℃)
【スケール(無機物)】
塩酸、硫酸、硝酸(~2%程度)